トゥキュディデスの罠

 トゥキュディデスの罠(Thucydides Trap)とは、古代アテナイの歴史家トゥキュディデスにちなむ言葉で、従来の覇権国家と台頭する新興国家が、戦争が不可避な状態にまで衝突する現象を指す。アメリカ合衆国の政治学者グレアム・アリソンが作った造語。

 

概要
 紀元前5世紀のスパルタとアテナイによる構造的な緊張関係に言及したと伝えられる(英文訳:“It was the rise of Athens, and the fear that this inspired in Sparta, that made war inevitable.” 和訳:「戦争を不可避なものにした原因は、アテネの台頭と、それが引き起こしたスパルタの恐怖心にあった。」)。
 古代ギリシャ当時、海上交易をおさえる経済大国としてアテナイが台頭し、陸上における軍事的覇権を事実上握るスパルタとの間で対立が生じ、長年にわたる戦争(ペロポネソス戦争)が勃発した。

 

 転じて、急速に台頭する大国が既成の支配的な大国とライバル関係に発展する際、それぞれの立場を巡って摩擦が起こり、お互いに望まない直接的な抗争に及ぶ様子を表現した言葉である。
 現在では、国際社会のトップにいる国はその地位を守るため現状維持を望み、台頭する国はトップにいる国に潰されることを懸念し、既存の国際ルールを自分に都合が良いように変えようとするパワー・ゲームの中で、軍事的な争いに発展しがちな現象を指す。

 

 2015年、オバマ大統領がアメリカで開催した米中二国間の首脳会談において、南シナ海などで急速な軍拡を進める中国の習近平国家主席との話で用いた。
 「一線を越えてしまった場合はもはや後戻りをすることは困難になる」という牽制の意味合いと思われる。

 

 ハーバード大学のベルファー・センターの研究によると、20世紀に日本が台頭した際の日露戦争、太平洋戦争などもこれにあたるとしている。その他、国際的には古くはイタリア戦争、英仏戦争、米ソ間の冷戦などを指す。

 

 アリソンとその著書『Destined For War』(邦訳『米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』)によると、過去500年間の覇権争い16事例のうち12は戦争に発展したが、20世紀初頭の英米関係や冷戦など4事例では、新旧大国の譲歩により戦争を回避した。

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