映画「十年 Ten Years Japan」

2015年、香港を舞台に自国の10年後を若手新鋭監督5人が描いた『十年』を元に、日本・タイ・香港が国際共同プロジェクトとして2017年に始動させた日本版。それぞれが独自の視点から描かれており、非常にクオリティーの高い作品ばかり。これら全てが、低予算にて制作されたと言うのだから驚きである。

 

超高齢化社会、一人のデータを全てクラウドに保存できるシステム、AIによる教育、原発による大気汚染、徴兵制度。どれもが今後、近い未来にありそうな内容ばかりで他人事とはとても思えない。どの作品も、見た後に考えさせられる素晴らしい映画。(MIHOシネマ編集部)

 

『PLAN75』
厚生省人口管理局の政策にて、75歳以上の高齢者に安楽死を奨励することになり、公務員の伊丹則介は貧しい老人たちを相手に日々、プランの説明を行っていた。
総人口の3人に1人が高齢者となった超高齢化社会を迎えた日本では、少子化に伴い社会保障費が200兆円を超え、このままでは国として立ち行かなくなるという危機的状態へと陥っていた。そこで、国は75歳以上の高齢者の数を減らすという苦渋の決断を下したのである。
認知症の母を妻佐紀と2人で介護していた伊丹は、いよいよ母もPLAN75へ申請するかどうかで思い悩む。仕事では制度の説明を散々行っている伊丹であっても、いざ身内となると簡単に送り出すことができない。身重の佐紀は徘徊する母の介護疲れもあり、プランには賛成の様子だった。
国の制度とは言え、伊丹たち公務員は高齢者に死ねと言っているも同然である。当然、この制度に反対する人々もいた。
そんなある日、母が行方不明になる。佐紀から連絡をもらった伊丹も必死で探したが、見つけられなかった。
やがて、夫婦の間に子供が誕生。伊丹は矛盾を抱えつつも、この機にマイホームを建てる決心をするのだった。

 

『いたずら同盟』
IT特区の小学校では、学校に通う子供達がAIによって理想的な道徳が日々、刷り込まれていた。子供達は右のこめかみに小型の機具を装着し、そこから事細かにAIの指示が入る。教師でさえもAIの指示を受け学校の方針を相談していた。
息が詰まりそうになる学校生活の中、学校で飼っている馬を見に来るのが息抜きになっている亮太。彼は普段から素行があまり良くなく、クラスでもはみだし者だった。
馬の世話は主に用務員の重田が行っているが、彼はそんな子供達を温かい目で見守っている。
そんなある時、高齢となった馬の殺処分が決定してしまう。教師たちの話を盗み聞きした亮太は、馬を逃がそうと考える。通りかかった友人も協力してくれることになり、AIの制止も聞かず馬を厩舎から解放。そのせいで、AIはオーバーロードしてしまい、機能を停止してしまうのだった。
駆け回る馬を追いかける亮太達を目にした重田は驚くものの、統制されているよりよほど子供らしい。彼はそんな亮太たちを笑って見送る。
日が暮れた頃、山へ入った馬を追って亮太たちも山中へ足を踏み入れた。電灯は持っていたが、馬の姿を見失ってしまう。どうにか見つけた時には、馬はすでに息絶えていたのだった。
このことからAIは自らをバージョンアップ。翌朝、山で野宿した亮太たちは、捜索の声を聞き付け帰路に就くのであった。

 

『DATA』
父、勉と2人暮らしをしている娘の舞花は母亡き後、家の家事を担うしっかり者。ある朝、勉が交際相手の女性と会って欲しいと言い出したため、舞花は笑顔で頷いた。そこで、彼女はふと生前の母の記憶が全て保存されているデジタル遺産カードがあったことを思い出す。
デジタル遺産カードとは、故人の記憶や全てのデータをクラウドに保存することで、いつでもどこでも、どんなデバイスでも故人の記録を見ることができるというサービスである。舞花の母は彼女がまだ幼い頃に亡くなっている。この機会に母のデータを見ておきたいという考えもあった。
友人の協力により、データを見ることができた舞花。母の持ち物を探し出しては母を偲んだ。ところが、メールの送受信に目を通した際、母の浮気疑惑が発覚。
そこで、舞花は友人と共に浮気相手と思われる男性へと会いに向かった。自分の父親はもしかして勉ではないかもしれない。だが、男性は肯定も否定もせず、むしろ故人の娘とは言え、人のデータを勝手に見るのは良いことだろうかと問うのだった。
友人と別れマンションへ帰ると、入り口で勉が待っていた。2人で行きつけのラーメン屋へ。そこで、父と様々な話をする。勉は娘がいずれは母親のデータを見て、相手の男性へと疑惑を持つことも予想していたのだろう。だが、父は亡き妻が浮気をしたとは思っておらず、舞花は自分の娘に決まっていると笑うのだった。

 

『その空気は見えない』
原発による大気汚染にて地下暮らしを余儀なくされた日本。地下の薄暗い施設で育ったミズキは母ヒトミと2人暮らしをしている。だが、ヒトミは非常に慎重で、ミズキが捕まえた虫でさえも触ってはいけないと言う。少女は産まれてこの方、地上へと出たことがなく強い憧れを抱いていた。
ヒトミは外の世界へ興味を抱かないよう常日頃から娘へと言い聞かせており、同じ興味を抱く友人とはもう付き合うなと言う。地下施設で暮らす人々には配給があり、定期的な健康診断がある。ヒトミは住居内でも常に放射線量の測定を行い、娘が放射能に汚染されていないか気にかけていた。
そんなある日、またも友人の元へ向かったミズキ。だが、友人は不在。彼女を待つ間、ふと目についたカセットテープを聞く。すると、そのテープには海のさざ波の音や鳥の声、風の音、様々な自然の音が録音されていた。
テープを聞いていたミズキだったが、突然ヒトミが現れカセットテープを誰から貰ったのか咎められる。ミズキは強く叱られ、テープを処分することになったのだが、実はそのテープには友人からの最後のメッセージも録音されていた。
ミズキと同様に外の世界へ憧れを抱いていた友人は、カセットテープを置いてたった1人で地上へと向かったのだ。そこで、ミズキは自分を守ろうとするヒトミの言葉を無視し、友人を追うことに。子供しか通れないような小さな穴を通って、施設の外へ。地上へ出る扉を開いたミズキは、生まれて初めて自然を感じ、不安を抱きつつも外の世界へと踏み出して行くのだった。

 

 

『美しい国』
自衛隊への徴兵制度が開始された日本。広告代理店に勤める渡邊は、徴兵制の告知キャンペーンの担当になる。
その朝、会社へ出社すると防衛省から告知ポスターの印象が弱いとクレームが入っていた。現ポスターのデザイナー、天達はベテランで、長年第一線にて活躍してきた人物である。今更、デザインを変更するなど難しい提案であった。
それでも、クライアントの要望は叶えなければならない。渡邊は菓子折りを準備し、天達の自宅へ。彼自身、彼女とは初対面であったが、挨拶もそこそこになぜかVRゲームの対戦相手に誘われる。天達は老年でありながら、かなりのゲーマーだった。彼女はゲームで戦争をしても人は死なないと笑う。
結局、夜になってもデザインの変更を言い出せず、夕食までご馳走になることに。食後、渡邊は改まってデザインの変更をようやく切り出した。すると、ミサイル飛来警報が鳴る。近頃、ミサイルの飛来が頻繁になっていた。天達と共に夜空を眺める。ミサイルの通過は見られなかったが、天達が現在のデザインについての思いを語るのだった。
彼女の父は徴兵により戦争へ参加したが、本当は宇宙へ行きたかったのではないか。その思いを込めて、デザインをしたのだと言う。若い人が徴兵により戦争へ赴き、命を落とすのは良いことだろうか。天達の思いを受け止めた渡邊は、日本をかつての美しい国へとするべくポスターのデザインを変更した。だが、ポスターを張り替えた際、若者の姿が見当たらない。彼はどこへ行ったのかと聞くと、同僚達は何も語らず撤収して行くのだった。

トップへ戻る