看護小規模多機能型居宅介護とは

看護小規模多機能型居宅介護とは、1つの事業所で訪問介護、通い、泊まり、訪問看護という4つのサービスを一体的に提供するサービスのことです。
近年、高齢化が進み医療的ケアを必要とする要介護者が増える中で、介護と看護の連携体制の必要性がますます高まりつつあります。
訪問、通い、泊まりのサービスを1つの事業所でまとめて提供できる小規模多機能型居宅介護は、各種サービスが連携し一体的に提供できるサービスとして評価が高いです。しかし、「看護」に対応していないため、対応できる医療的ケアには限界があります。
そこで導入されたのが、小規模多機能型居宅介護に「訪問看護」の機能を追加した看護小規模多機能型居宅介護です。これにより、介護と看護が1つの事業所で一体的に提供できるサービス提供体制が実現しました。

 

1.地元での生活を支えるのが目的

 

看護小規模多機能型居宅介護は、現在国が推し進めている「地域包括ケアシステム」を担う中心的な存在として期待されています。
地域包括ケアシステムとは、高齢者が住み慣れた地域(自宅)で最期の時まで生活できるように、介護や医療など必要なサービスを統合的に提供する体制のこと。
看護小規模多機能型居宅介護は、この地域包括ケアシステムを実現することを目的として導入されたサービスです。
医療依存度が高くなった場合でも病院や施設ではなく自宅での生活を希望する人にとって、看護小規模多機能型居宅介護は心強い味方となるでしょう。

 

2.サービス内容と特徴

 

デイサービス

 

看護小規模多機能型居宅介護は利用者が少人数であるため、通いとしてのサービスはアットホームな雰囲気の中で提供されます。受けられるサービスは食事や入浴、排泄などの介助、レクリエーション、主治医の指示に基づく医療的ケア、リハビリなどです。
また、看護小規模多機能型居宅介護における通いのサービスには、朝の早い時間帯から夜の遅い時間帯まで利用できるという特徴があります。
そのため、家族介護者が仕事をしている場合も利用しやすいです。

 

訪問看護サービス

 

事業所に所属する看護職員が利用者の自宅を訪問し、医療的ケアを必要とする方や看取り期の方への対応を行います。
利用者の心身状態に合わせた医療的ケア、服薬管理を適切に行ってくれるので、医療依存度が高めの方も安心です。
病院から退院したばかりで、自宅での生活に不安を抱えている利用者とその家族に対する相談、指導も行っています。

 

看取り対応も可能

 

小規模多機能型居宅介護は看取り介護も可能
看護小規模多機能型居宅介護の大きな特徴として、終末期や緩和ケアの対応を行えるという点を挙げることができます。
最期のときを病院ではなく自宅で迎えたいという方にとって、自宅で看護師から医療的ケアを受けることが不可欠です。
この場合、単体のサービスとして「訪問看護」を利用するという方法もありますが、看護小規模多機能型居宅介護でも同様に対応できます。
しかも看護小規模多機能型居宅介護の場合、毎月定額で利用できるため、どれだけ利用しても支払い額がどのくらいになるのか予測がつきやすいです。

 

訪問介護サービス

 

デイサービスなどを提供する職員と同じ職員が、利用者の自宅に訪問して食事や排泄、入浴の介助、調理や掃除などの生活支援、買いもの同行などのサービスを行います。
通常の訪問介護サービスは「1回あたり30分以下」のような時間の制限などがありますが、看護小規模多機能型居宅介護での訪問サービスは、そのような時間制限はありません。
毎月、要介護度別に定額で自己負担額を支払うので、どれだけ利用しても料金は同じです。
さらに、24時間対応のサービスであるため、利用者の心身状態は家族の都合に合わせて訪問をお願いできます。

 

宿泊サービス

 

利用者が日中にデイサービスを利用して、そのまま事業所に宿泊できるサービスです。宿泊時に対応してくれる職員は、デイサービスや訪問サービスでも対応してくれ顔馴染みの職員なので、安心して泊まることができます。
泊まりに関する単体の介護サービスとしてはショートステイがありますが、こちらの場合、利用にあたってはその都度事前の予約が必要です。
一方、看護小規模多機能型居宅介護は、宿泊するにあたって予約が要りません。そのため、昼間デイサービスを利用して体調が悪化した場合などは、自宅に戻らずにそのまま事業所に泊まる、ということもできるのです。
もし宿泊中に体調が急変したときは、看護師が応急手当を行ったり、主治医・提携医療機関と連絡を取って対応してくれます。
ただし、深夜の時間帯については看護師の人員基準は定められていません。そのため、事業所によっては看護師が不在のこともあります。

 

3.事業所数

 

看護小規模多機能型居宅介護は年々増え続けてはいるものの、まだまだ数としては十分とは言えない状況です。
2012年にサービスの導入が開始されましたが、厚生労働省によると、5年後の2017年時点における事業所数は全国で357施設。地域によっては近隣に事業所が立地しておらず、利用しにくい場合もあります。
看護小規模多機能型居宅介護は国が勧めている地域包括ケアシステムの核をなすサービスの1つです。今後、さらなる拡充が望まれます。

 

4.事業所の定員数

 

事業所1ヵ所あたりの登録定員は最大でも29人。
1日あたりの通いのサービスにおける定員数は最大で18人です。
大規模デイサービスなどに比べると少なめです。
そのため、職員と利用者、そして利用者同士の距離感が近く、アットホームな雰囲気を形成しやすいと言えます。
また、1日あたりの泊まりのサービスにおける定員も最大で9人のみ。
こちらも定員が少ないため、職員による目が行き届きやすく、緊急時の対応も行いやすいです。
しかも勤務している職員は通いや訪問でもお世話になっている顔馴染みの職員。
見知らぬ利用者も新しい職員からサービスを受ける」という緊張感・ストレスを感じずにサービスを受けることができます。

 

5.一日の流れ

 

 

6.スタッフの平均人数

 

厚生労働省によると、看護小規模多機能型居宅介護を提供する事業所の職種別平均職員数は、介護職員8.7人、看護師3.2人、准看護師1.0人、理学療法士0.2人、作業療法士0.1人、ケアマネジャー0.6人、その他職員0.6人で、合計平均14.3人です(2015年時点)。
平均で看護師が3.2人、准看護師が1人配置されているため、要介護度が高く、医療依存度が高めな利用者への対応力も高いと言えます。また、理学療法士や作業療法士が配置されている事業所では、リハビリサービスへの対応力も高いです。

 

ただし、これらの職員数はあくまで平均値であるため、実際にどの専門職が何人配置されているのかは事業所ごとに確認する必要があります。

 

7.人員配置基準

 

時間帯による配置基準
看護小規模多機能型居宅介護の人員基準は時間帯によって違います。
まず日中の場合だと、通いのサービスを提供するために常勤換算で利用者3人あたりに職員1人以上、訪問サービスについては2人以上配置しなければなりません。
また、通いや訪問サービスのうちそれぞれ1人以上は保健師、看護師または准看護師である必要があります。
一方、泊まりの利用者がいる夜間は、時間帯を通して夜勤職員を1人以上、宿直職員を1人以上配置することが義務付けられています。
ただし、利用者が誰も泊まりサービスを利用しない場合は、夜勤・宿直職員を配置する必要はありません。なお、看護職については夜勤・宿直の配置基準は設けられておらず、必要に応じた体制で可能とされています。

 

看護職員

 

事業所全体として配置すべき看護職員数は、常勤換算で2.5人以上。そのうち1人は常勤の看護師又は保健師であることが必要です。
なお、訪問看護事業者としての指定を同時に受けていて、同じ事業所で一体的な運営をしているのであれば、訪問看護ステーションの人員基準である「看護職員2.5人以上」を満たしていれば基準を満たしているとみなされます。

 

ケアマネジャー(介護支援専門員)

 

必要とされる研修を修了し、ケアプランの作成などに従事するケアマネジャー(介護支援専門員)の配置も必要です。
看護小規模多機能型居宅介護を利用する場合、利用者は事業所に所属するケアマネジャーと相談しながらケアプランを作成していきます。
ケアマネジャーは非常勤での配置でも問題はありません。事業所の管理者などの役職と兼務することもできます。

 

管理者

 

事業所全体のマネジメントを行うのが管理者であり、常勤での配置が義務付けられています。
看護小規模多機能型居宅介護事業所の管理者となるには、特養(特別養護老人ホーム)などで認知症の利用者に対する介護経験が3年以上あり、厚生労働大臣が指定する研修(認知症対応型サービス事業者管理者研修)を修了した人、あるいは看護師もしくは保健師です。
管理者はケアマネジャーと兼務できますが、ケアマネジャー資格を有していれば、管理者にそのままなれるというわけではありません。
所定の条件を満たした人のみが、管理者の役職に就くことができます。

 

8.小規模多機能型居宅介護との違い

 

小規模多機能型居宅介護との最大の違いは、看護小規模多機能型居宅介護には訪問看護があるという点です。
小規模多機能型居宅介護は「通い」「訪問介護」「泊まり」は利用できますが、訪問看護を受けることができません。
そのため、常時医療的ケアを必要とする重度の要介護者の場合、訪問看護サービスを提供する事業所・施設と別途契約を結び、サービス利用をする必要があります。
しかし、看護小規模多機能型居宅介護では小規模多機能型居宅介護のサービスに加えて「訪問看護」も利用できるので、訪問看護だけ別の事業者と契約するといった必要がありません。
しかも、通いなどほかのサービスでも看護職員の支援を受けることもできます。

 

看護小規模多機能型居宅介護の仕事

 

1.仕事内容

 

「通い」「訪問介護」「泊まり」のサービスについては小規模多機能型居宅介護と内容は同じです。しかし、そこに訪問看護も追加している点が看護小規模多機能型居宅介護の特徴と言えます。具体的な業務内容は以下の通りです。
まず、訪問介護では、食事・排泄・入浴介助などの身体介護、調理や掃除、ゴミ出しなどの生活援助、健康チェック、服薬介助、外出介助、安否確認、通院の介助などが行われます。
次に、通いと泊まりでは、食事・排泄・入浴などの介助に加えて、レクリエーションの企画と運営、利用者の自宅への送迎、各種事務作業などの業務もカバーします。
最後に、訪問看護では、
@点滴や注射、褥瘡への処置といった各種医療行為、
A肺炎や褥瘡、拘縮の予防、緩和ケア・ターミナルケア・看取りケア、
B各種医療機器の管理および家族への使用法の指導、
C服薬管理および指導などを行います。

 

2.働くために必要な資格

 

小規模多機能型居宅介護に働くための必要な資格
介護職員として勤務する場合は制度上の資格要件などはありませんが、介護職員初任者研修や介護福祉士実務者研修、介護福祉士などの資格を持っていると、待遇面で有利になるでしょう。
看護師・准看護師などについてはそれぞれ看護師の国家資格、准看護師資格を保有していることが必須です。また、リハビリを提供する理学療法士、作業療法士などの専門職も、それぞれ国家試験に合格している必要があります。
ケアマネジャーについては、まず介護支援専門員実務研修受講試験に合格して研修を修了する必要があります。その後、各都道府県でケアマネジャーとしての登録を行います。

 

3.雇用形態別の給料

 

「みんなの介護求人」の実際の求人情報を見てみると、看護小規模多機能型居宅介護の給与額は、正職員だと月給で15万円〜30万円ほどが相場です。
ただし、どのような専門職で勤務するかによって給与額は大きく変わってきます。例えば、未経験の介護職員であれば月給は10万円台後半が相場です。
一方、経験豊富な看護師であれば20万円台半ば〜30万円が一般的となっています。
パートアル・バイトについても専門職によって給与額が異なり、介護職員だと800円台からが相場ですが、看護職員であれば平均で1,500円以上です。
もちろん以上の金額はあくまで平均値であり、勤務先によって待遇は大きく変わってきます。また、介護職員の場合も豊富な実務経験を持ち、介護関連の資格を持っていれば、給与額も高めとなるでしょう。

 

看護小規模多機能型居宅介護の利用方法は?

 

1.利用条件

 

看護小規模多機能型居宅介護を利用できるのは以下の条件を満たした場合です。

 

@要介護認定を申請し、要介護1〜5の認定を受けている人
A事業者と同じ市町村に住んでいる人、
実際に利用するには、まず担当のケアマネジャーに相談しながら住んでいる地域にある看護小規模多機能型居宅介護事業所を探し、該当する事業所があれば契約を行う必要があります。
ただし、契約すると事業所所属のケアマネジャーに担当を切り替える必要があり、それまでサポートしてくれたケアマネジャーは担当を外れますので注意しましょう。
また、看護小規模多機能型居宅介護を利用しつつ、訪問介護、訪問看護、デイサービス、ショートステイなどの単体サービスの並行的な利用はできません。
これらのサービスはいずれも看護小規模多機能型居宅介護で一体的に提供されるので、並行利用はしないのがルールです。

 

2.利用対象者

 

利用対象となるのは要介護認定で要介護1以上の認定を受けており、かつ事業所と同じ市町村に住んでいる人です。
看護小規模多機能型居宅介護は地域密着型サービスであるため、原則としてほかの市区町村に住んでいる人は利用できません。
ただし、要介護1以上の人が利用対象ではありますが、訪問看護が追加されたサービスであるため、特に医療依存度が高めの方が利用対象であると言えます。
常時医療的ケアを必要としないならば看護サービスは不要なので、小規模多機能型居宅介護などそのほかのサービスでも問題ないでしょう。
しかし、特定の医療器具の装着・管理が必須である、点滴・注射が必要であるなど、看護職でなければ対応できないケアが必要な場合は、看護小規模多機能型居宅介護の利用が望ましいです。

 

医療保険で訪問看護を利用できる

 

看護小規模多機能型居宅介護が提供する訪問看護は、医療保険による利用もできます。例えば要介護認定をまだ受けていないものの、自宅で生活するうえで一定の医療的ケアを必要とする場合、適用される保険は介護保険ではなく医療保険です。
訪問看護ステーションや医療機関などが提供する訪問看護サービスは、医療保険によるサービス提供に対応しています。看護師が常駐する看護小規模多機能型居宅介護事業所においても、同様に医療保険に対応できるように制度化されているわけです。

 

3.利用料金

 

要介護認定の段階ごとに設定された月額定額制の料金となっているため、負担額を把握しやすいです。具体的な要介護度別の料金は以下のように算出できます。なお、1単位10円、自己負担額1割での計算です。

 

要介護1   1万2,401円
要介護2   1万7,352円
要介護3   2万4,392円
要介護4   2万7,665円
要介護5   3万1,293円

 

出典:『介護給付費単位数等サービスコード表』2020年07月31日時点
なお、「泊まり」を利用する場合は、上記の定額料金以外にも1日あたり約1,000円〜3,000円の宿泊費がかかります。そのほか、食費や日用品の費用、おむつ代などの負担も必要です。

 

4.主な加算の種類

 

利用している看護小規模多機能型居宅介護事業所が加算を得ている場合、利用者は要介護度別の定額料金に加えて加算の費用負担が必要です。
事業所側からすると、加算を得ることでより介護報酬がアップします。
加算の追加が認められるのは以下の場合です。なお、1単位10円、自己負担額1割での計算です。
初期加算とは、利用を開始後30日間、利用者は1日30円ほど料金が追加されます。
認知症加算とは、利用者が一定以上の重い認知症を発症している場合に、利用者は1ヵ月800円または500円の追加料金を負担します。
看護職員配置加算は、事業所が常勤の看護師を1人以上配置しているときは1ヵ月につき900円、准看護師の場合は1ヵ月につき700円、非常勤の勤務時間も加味した常勤換算法で配置している場合は1ヵ月につき480円の追加料金が発生します。

 

利用するメリット・デメリット

 

1.メリット

 

看護小規模多機能型居宅介護の最大のメリットは、1つの事業所で訪問介護、通い、泊まり、訪問看護という4つのサービスを、別々に契約しなくても一体的に利用できるという点です。
これらのサービスは、「訪問介護サービス」「デイサービス」「ショートステイ」「訪問看護サービス」という形で、保険制度上独立したサービスとしても利用できます。
しかしその場合、それぞれ個別に利用契約を結ばなければなりません。そのため、契約に手間がかかり、手続きが面倒なものになりがちです。
看護小規模多機能型居宅介護なら、これらサービスをすべて同じ事業所が提供するので、契約回数は一度で済みます。
さらに2つ目のメリットとしては、料金が定額制であるという点です。要介護度別に毎月負担する額が規定されているので、利用頻度や回数を気にせずに通い、サービスを利用できます。

 

2.デメリット

 

看護小規模多機能型居宅介護におけるデメリットの1つが、「通い」は一日最大で18人、「泊まり」は一日最大で9人と人数の利用制限があるため、利用者が希望する日に利用できない場合があるという点です。
また、看護小規模多機能型居宅介護を利用しているとほかのデイサービスや訪問介護、ショートステイなど他のサービスを個別に利用できないため、例えばお気に入りのデイサービスなどがある場合、そちらも利用できないという難点もあります。
ケアマネジャーも施設所属となるため、それまでの顔馴染みのケアマネジャーは利用できません。
また、少人数体制でサービスが提供されるため、ほかの利用者や職員との人間関係がこじれると、利用が難しくなるという難点があります。
例えば利用人数の多い大規模デイサービスなどは、関係が悪化した人と会わないように利用時間をずらすなどの対応がある程度できるでしょう。
しかし、看護小規模多機能型居宅介護だと、どうしても同じ利用者や職員顔を合わせてしまいます。場合によっては継続利用が難しくなることもあるため、利用の際は注意が必要です。

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