デジタル庁

第1 はじめに ~重点計画の目的~

 

 我が国では、高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT 基本法)の制定以降、インターネット等のネットワーク環境の整備は相当程度進展したものの、デジタル技術の進展に伴い、その重要性・多様性・容量が爆発的に増大した「データ」については、生成・流通・活用など全ての側面において環境整備が十分ではなかった。

 

 こうした状況の中、新型コロナウイルス感染症への対応において、国や地方の情報システムが個々にバラバラで十分な連携がなされていなかったこと、マイナンバー等のデジタル基盤に関する制度や手続の所掌が複数府省庁に分散していたこと、各府省庁で所管業界を対象としたデータ利活用の推進等が図られたものの府省横断的な視点が十分ではなかったことなどにより、行政機関同士の不十分なシステム連携に伴う行政の非効率や、度重なるシステムトラブルの発生など、官民においてデジタル化をめぐる様々な課題が明らかになった。

 

 海外においては、コロナ禍以前から、民間部門において、データを効果的に生成・収集・利活用する企業が続々と勃興、プラットフォーム効果とあいまって急激な成長、技術革新を遂げているだけでなく、政府を始めとする公的部門においてもデータの活用が進展し、新型コロナウイルス感染症対応の多くの場面において我が国との差異が顕在化したところである。

 

 こうしたデジタル技術の高度化に対応することなく、場当たり的・継ぎ接ぎ的な対応をしている限り、我が国は世界の趨勢に乗り遅れ、国際競争力の低下を招くとの認識の下、昨年「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」(以下「デジタル改革基本方針」という。)が策定され、令和3年(2021 年)9月1日、デジタル庁が発足した。

 

 デジタル庁の創設により我が国の情報システム整備体制は相当程度整備されたが、これは我が国におけるデジタル社会の実現に向けた第一歩にすぎない。今後、デジタル庁の更なる体制強化を図りつつ、グローバルレベルのデジタル社会を実現するためには、将来的なデジタル社会の目指す姿、ビジョンを描き、その実現に向けて、関係者が一丸となって取組を進める必要がある。このため、デジタル庁において令和3年(2021 年)9月から「デジタル社会構想会議」を開催し、今後のデジタル社会の在り方等について調査審議を進めることとした。

 

 デジタル社会の目指す姿を実現するためには、単に国や地方公共団体の情報システムを改革するだけでは不可能である。規制・制度、行政や人材の在り方まで含めて本格的な構造改革を行わなければ、そもそもデジタル化を進めることも困難であり、ましてや、その恩恵を国民や事業者が享受することもできない。このため、令和3年(2021 年)11 月から内閣総理大臣を会長とする「デジタル臨時行政調査会」を開催し、デジタル改革、規制改革、行政改革といった構造改革に係る横断的課題の一体的な検討や実行を強力に推進することとした。

 

 また、デジタル化の恩恵を国民や事業者が享受するためには、構造改革だけでも不十分であり、 実際にデジタル技術の実装を通じて地方が抱える課題を解決することで、地域の暮らしの向上、産業の活性化、持続可能な社会の実現、幸福度の増大を図る必要がある。そのため、令和3年 (2021 年)11 月から内閣総理大臣を議長とする「デジタル田園都市国家構想実現会議」を開催し、地方創生におけるこれまでの取組や成果などを十分に踏まえながら、デジタル化の恩恵を日本全国津々浦々にまでに広げ、根付かせるための取組を強力に推進することとした。

 

 さらに、グローバル化とデジタル化があいまって進展し、データの重要性が飛躍的に高まる中で、デジタル化のもたらすプライバシーやセキュリティ上の懸念、情報の極端な偏在、競争上の 課題などが世界的に顕在化している。

 

 我が国は、データがもたらす価値を最大限引き出すには、プライバシーやセキュリティ等への適切な対処により信頼を維持・構築することが、国境を越えた自由なデータ流通を促進することを可能にするとの認識の下、令和元年(2019 年)に「信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)」の概念を提唱したが、今こそ DFFT 推進に向けた具体的成果の創出が求められている。令和5年 (2023 年)のG7日本議長年も見据えて、我が国がDFFTの推進をリードしていくこととする。

 

 我が国のデジタル化の歩みを振り返ると、20 年前には、インターネットを始めとするネットワークの構築がIT 戦略の中心となっていたが、その後の環境変化を踏まえ今日では、国民一人ひとりにどのようなサービスを提供することができるかといった点が重要であり、我が国の成長戦略の視点も大きく変革している。

 

 我が国のデジタル改革は、緒に就いたばかりであるが、この重点計画は、目指すべきデジタル社会の実現に向けて、政府が迅速かつ重点的に実施すべき施策を明記したものであり、デジタル庁を始めとする各府省庁がデジタル化のための構造改革や個別の施策に取り組み、また、それを世界に発信・提言する際の羅針盤となるものである。
よって、まずこの計画に記載した施策については、その利用者である国民や事業者等の視点を重視し、施策のスケジュールや指標(KPI)を可能な限り設定しつつ、定期的に進捗状況や成果等のフォローアップを行い、着実に進めていくこととする。

 

 そして、同時に、この計画に記載した我が国が目指すべきデジタル社会を実現するため、この計画に記載した「デジタル原則」に基づき、必要となる施策等の追加・見直しの検討・整理を進めることとする。

 

 具体的には、令和4年(2022 年)の年央に向け、「デジタル社会構想会議」、「デジタル臨時行政調査会」、「デジタル田園都市国家構想実現会議」それぞれにおける検討・取組を進めるとともに、これらと連動して、デジタル庁が司令塔となり、各府省庁と緊密に連携・協力して、必要と なる施策等の追加・見直しの検討・整理を行う。

 

 その上で、令和4年(2022 年)の年央を目途に、この計画をバージョンアップさせた、次期の重点計画を策定することを目指すこととする。

 

第2デジタルにより目指す社会の姿
 デジタル改革基本方針では、デジタル社会の目指すビジョンとして「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」を掲げており、このような社会を目指すことは、「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」を進めることに繋がるとしている。そして、それは政府全体の目標である Society 5.0(日本が提唱する未来社会のコンセプト。科学技術基本法に基づき、5年ごとに改定されている科学技術基本計画の第5期でキャッチフレーズとして登場した。)の実現にも直接資するものである。
「目指す社会の姿」を実現するためには、1デジタル化による成長戦略、2医療・教育・防災・ こども等の準公共分野のデジタル化、3デジタル化による地域の活性化、4誰一人取り残されないデジタル社会、5デジタル人材の育成・確保、6DFFTの推進を始めとする国際戦略を推進することが求められる。それらに関するデジタル社会構想会議における議論を踏まえ、分野ごとの目指すべき社会の姿、その実現に向けた手法、留意点について当面以下1.~6.の方針で施策を展開することとする。

 

 その際、誕生したばかりの新生児から高齢者に至るまで、人生100年の時代におけるあらゆるライフステージにおいて、我が国の未来を支えるこども達一人ひとりに最適な教育の提供、人を惹き付ける魅力的な仕事の創出、生涯を通じたゆとりと安心のある暮らしの実現など、国民一人ひとりが、デジタル技術の恩恵によってそれぞれのライフスタイルやニーズに合った心豊かな暮らしを営むことができるよう、「個人を支える」デジタル化の実現を目指すものとする。

 

 さらに、デジタルにより地域が直面する様々な課題を解決し、デジタル田園都市国家構想の実現に寄与する「地域を支える」デジタル化、デジタル改革・規制改革・行政改革といった構造改革を推進し、我が国の経済成長に貢献する「産業を支える」デジタル化、国や地方が共通して使うことのできるデジタル基盤を整備し、効率的な行政運営を実現する「国を支える」デジタル化、 DFFT の推進により、信頼を維持しつつデータがもたらす価値を最大限に引き出す「世界を支える」デジタル化の実現も併せて目指すものとする。

 

 フィジカル空間(現実空間)とサイバー空間(仮想空間)を高度に融合させたシステム(デジタルツイン)を前提 とした、経済発展と社会的課題の解決を両立(新たな価値を創出)する人間中心の社会であり、豊かな人間社会を支えるもの。

 

 この計画では、「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針 ~こどもまんなか社会を目指すこども家庭庁の創設~」(令和3年 12 月 21 日閣議決定)に倣い、法令上の用語や既存の研究会・調査等を引用している場合を除き、「こども」という表記を使用する。

 

 

1.デジタル化による成長戦略

 

 「はじめに」で示したように、新型コロナウイルス感染症への対応でデジタル化をめぐる様々な課題が顕在化した今こそ、デジタル化を一気に進め、社会課題を解決する必要がある。 デジタルの可能性を最大限に引き出すことは、一つ一つの産業の成長はもとより、我が国経済の持続的かつ健全な発展と国民の幸福な生活の実現の上でも不可欠といえる。すなわち、デジタルの力によって、場所を問わず、年齢を問わず、国民一人ひとりが多様な選択肢を持ちながら質の高い生活を送ることができ、ライフステージに合った最適なサービスを選択することのできる社会の実現が可能となり、さらには、自然災害や感染症等の事態に対して強靱な社会の実現が可能となる。逆にいえば、今、覚悟を決めてデジタルを最大限活用して課題解決を図らなければ、我が国が世界最先端のデジタル国家になることはおろか、世界に伍していくことももはや不可能というマインドセットへの転換を図る必要がある。

 

 加えて、少子高齢化や地域の人口減少が進む我が国においては、データを智恵・価値・競争力の源泉であるとともに、課題先進国である日本の社会課題を解決する切り札と位置付ける。 また、デジタルによる国や地方公共団体の情報システムの刷新に加えて、デジタルに合致していない規制・制度、行政や人材の在り方も含む本格的な構造改革を行う必要がある。
このような課題意識の下、官民でデジタルファーストの原則を業務の進め方も含めて徹底 することにより、社会全体の生産性の向上を図るとともに、デジタル化により蓄積されたデータを活用した政策決定や、官民のデータの流通・活用を通じて社会の効率性や創造性を高め、 結果として、国民一人ひとりのニーズやライフスタイルに合ったサービスが提供される豊かな社会、継続的に力強く成長する社会の実現を目指す。
 デジタルファーストの原則を法制面から徹底するため、社会にデジタル技術を実装する際の原則を確立し、法令が原則に適合したものであるかを確認するプロセスや体制の在り方について検討することとする。

 

 創造性の高い社会を構築するためには、国は地方公共団体や民間との連携の在り方を含めたアーキテクチャの設計やデータの標準化を推進し、上位のレイヤーは民間の活力・創意工夫を最大限に活用するといった役割分担を明確にすることも重要である。

 

 また、こうした社会の基盤として、識別子としてのマイナンバーと、本人確認・認証手段としてのマイナンバーカードを峻別した上で、デジタル社会における ID であるマイナンバーの利用の拡大を図るとともに、継続的な発展に向けて、マイナンバーカードによる認証を利用した行政サービスを民間が後押しするための仕掛け、つまりはライフイベント(人生の大きなできごと)において、行政サービスと民間事業者のビジネスの恩恵を、国民一人ひとりが官民システムの連携を通じて享受できる社会の実現を目指す。あわせて、オープンデータの活用の徹底や様々なプラットフォームの連携・拡大に取り組む。

 

 さらに、マイナンバーカードの持つ機能をデジタルデバイスにアプリ等として搭載するなど、物理的にカードを持ち歩くことなくデジタルデバイスによってサービスが完結することにより、より一層のマイナンバーカードの普及や当該サービスの利用が期待できる。

 

 加えて、5G や光ファイバーなどのインフラを全国的に整備した上て?、デジタル技術を活用した自動配送・遠隔医療・オンライン教育の実施などのサービスを実装すること、データを活用することにより健康・医療・介護、教育、防災等の準公共分野を始めとする全産業のデジタル化を推し進めること、取引(受発注・請求・決済)等の相互連携分野のデジタル化を通じて中小企業のデジタル化を支援することなど、規制改革の象徴であり、成長戦略の柱である社会全体のデジタル化を進め、産業全体の収益力の強化を図ることが20 年間停滞してきた我が国の経済の成長のために不可欠である。

 

 一方、経済成長の代償として、他の重要な価値観を軽視するようなことがあってはならない。 互いの尊厳や意見が尊重されるような偏りのない公正なデジタル社会や、経済成長と国民の幸福や SDGs といった社会的な道徳の価値が両立した社会の実現も同時に目指していく。

 

医療・教育・防災・こども等の準公共分野のデジタル化

 

 健康・医療・介護、教育、防災、こども等の準公共分野は、国民生活に密着している分野であるにもかかわらず、現状では、サービスの提供を受ける利用者の側から見れば、様々な切り口から断片的・画一的なサービスが提供されている状況にあり、「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」(目指す姿)になっていない。

 

 今後、各サービスの組合せや変化に対する柔軟性を高め、その結果、サービスの提供を受ける個人が複数のサービスを自らのニーズに応じて自由に組み合わせ、より豊かな生活の実現に向けて暮らしを自らの手で積極的にデザインすることができるような社会、すなわちデジタルの可能性を最大限に引き出すことによって一人ひとりに最適なサービスが提供される社会の実現を目指す。

 

このため、準公共分野においては、官民間やサービス主体間での分野を越えたデータの提供・共有をデジタル化によって更に進め、地域ごとに設定されたデータの取扱いルールを見直してスケールメリットを発揮できるよう、民間がデータを提供・利活用する際に遵守すべきルールを明確に設定する。

 

 また、国民一人ひとりが最適にサービスを組み合わせ、自由に暮らしをデザインできるような多様なサービスの提供を促進するため、政府が蓄積・収集した準公共分野のデータや民間が保有する準公共分野のデータについては、オープンデータ・バイ・デザイン(行政が保有するデータについては、オープンデータを前提として情報システムや業務プロセス全体の企画、整備及び運用を行う)の考えを徹底することにより民間による積極的な利用を促進するとともに、API・データ(Application Programming Interfaceソフトウェアやアプリケーションなどの一部を外部に向けて公開することにより、第三者が開発したソフトウェアと機能を共有できるようにしてくれるもの)の公開原則を徹底することにより相互に関連するサービスの官民連携を促進する。

 

 準公共分野における国・地方間のデータ連携・API 連携については、デジタル庁が司令塔と なって、連携アーキテクチャの設計も含め全体像を描き、その不断の見直しを行うこと、情報システム間で異なるデータの取扱いルールの標準化や機関ごとに異なる調達基準などの整備を促進すること、基盤となるデータをベース・レジストリとして整備し、行政機関内の共有にとどまらず、民間を含めて広く活用され得るものはオープンデータ化を徹底することなど、データの利活用に関するルールを積極的かつ継続的に見直していくことが求められる。

 

 さらに、各分野におけるデータの積極的な利活用の実現に支障となっている制度や運用を見直すこと、モビリティ、健康・医療・介護、気象、人流等のデータを防災分野において利活用する等、分野横断的なデータ利活用を促進することにより、サービスの質の更なる向上を図る。

 

 その際、国民一人ひとりが安全・安心な環境の下でニーズに合ったサービスを選択できるよう、サイバーセキュリティの確保や個人情報の保護を徹底する。

 

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