パンデミック

 パンデミック(英語: pandemic)とは、ある病気(感染症)が国中あるいは世界中で流行すること。ある感染症(特に伝染病)の(顕著な感染や死亡被害が著しい事態を想定した)世界的な流行。世界流行とも。
 パンデミックとは何らかの病気、特に感染症が、ある国の中のそこかしこや、国境を越えて世界中で流行することである。
(病気(特に感染症)の)流行は、その規模に応じて
(1)エンデミック、
(2)エピデミック、
(3)パンデミックに分類される。
このうち最も規模が大きいものがパンデミックである。
endemic エンデミック(地域流行)
 特定の人々や特定の地域において、「regularly (ある程度の割合、ポツポツと)」見られる状態[9]。地域的に狭い範囲に限定され、患者数も比較的少なく、拡大のスピードも比較的遅い状態。「流行」以前の段階。風土病もエンデミックの一種に当たる。
epidemic エピデミック(流行)
 特定のコミュニティ内で、特定の一時期、感染症が広がること[10]。特に突発的に規模が拡大し集団で発生することをアウトブレイクと呼ぶ。
pandemic パンデミック(汎発流行)
(さらに流行の規模が大きくなり)国中や世界中で、感染症が流行すること。
 なお「感染症」とは、微生物が体内に侵入し、繁殖したためにおこる病気のこと。たとえばウイルス、細菌、原虫などの病原体がからだの中へ侵入して増え、その結果、咳、発熱、下痢などの症状がでることを言う。
 ヒトからヒトへの感染(=「ヒト-ヒト感染」)を起こすようなウィルスの場合、(感染力が弱ければ、大流行に至らずに済む場合もあるが)感染力が高ければ高いほど、感染を防げないままに、2次感染、3次感染...と感染が広がってゆくことになりがちで、一人の人から3名、4名、5名...などと 多人数の人に感染するような感染症では、「ヒト-ヒト 感染」が繰り返されるうちに指数級数的に、つまり「爆発的」に広がってゆくことになる。
(古代や中世は旅をする人々の割合は少なかったが)現代では、人々の移動が盛んで、おまけに世界各国で、国内旅行だけでなく、航空機を用いた外国旅行も世界的に非常に盛んになっているので、国境を越えて世界規模のパンデミックが起きやすくなっている。たとえば2002年〜2003年のSARSのパンデミックでは、中国国内で最初期の感染が起きたが、最初の感染者の治療を行った中国人医師のひとりが(自分が感染してしまったとの自覚も無いままに、親類の結婚式出席のために)香港へと旅をしたことで香港に滞在している人々に飛び火し、その香港には、世界中の各国から中国人(中国系○○人)がやってきてはそれぞれ自国(移住先)に帰国するために、あっという間に世界各地に飛び火した。
 パンデミック、なかでも生命にかかわるような症状をともなう感染症のパンデミックは、人類の皆にとっての脅威である。
 現在までヒトの世界でパンデミックを起こした感染症には、天然痘、インフルエンザ、AIDSなどのウイルス感染症、ペスト、梅毒、コレラ、結核、発疹チフスなどの細菌感染症、原虫感染症であるマラリアなど、さまざまな病原体によるものが存在する。
 AIDS、結核、マラリア、コレラなど複数の感染症については世界的な流行が見られるパンデミックの状態にあり、毎年見られる季節性インフルエンザ(A/ソ連、A/香港、B型)の流行も、パンデミックの一種と言える。 ただし、これらの感染症の中でも特に新興感染症あるいは再興感染症が集団発生するケースでは、しばしば流行規模が大きく重篤度(死亡率など)が高くなるものが見られるため、医学的に重要視されている。これらの新興(再興)感染症によるパンデミックはしばしば一般社会からも大きく注目されるため、一般に「パンデミック」と呼ぶ場合、これらのケースを指すことも多い。

 

パンデミックの歴史
・14世紀には黒死病(ペスト)がヨーロッパで大流行した。このときの流行では当時のヨーロッパ総人口の約3分の1にあたる、およそ2500万人から3000万人もの死者を出したとされる。
・16世紀には天然痘が南北アメリカ大陸で猛威をふるい、天然痘の免疫を持たなかった先住民の人口は約10分の1にまで減少した。またこの天然痘の大流行はアステカ帝国やインカ帝国といった現地の政治権力に大打撃を与え、両国の滅亡とスペインの新大陸制覇の一因となった。
・19世紀から20世紀にかけてコレラが、地域を変えつつ7回の大流行を起こした。
・1918年から1919年にかけてスペインかぜ(インフルエンザ)が全世界で流行し、死亡者は約5000万人から1億人にものぼった。この時期は第一次世界大戦の末期にあたり、総力戦体制のもと全世界的に軍隊や労働者の移動が活発となったことが被害を大きなものとした。流行は鉄道や河川といった輸送ルートを通って海岸部の港湾都市から奥地へと広がっていった。
・1980年代以降、後天性免疫不全症候群の患者が全世界で増大したが、なかでももっとも感染の激しかったブラックアフリカでは全人口の30%以上が感染した国家まで存在し、平均寿命の大幅な減少がいくつかの国家で見られた。
・2002年11月1日〜2003年8月7日にはSARSが世界各地で流行。香港を中心に8,096人が感染し、37ヶ国で774人が死亡した。
なお「パンデミック宣言」がなされたものの実際の被害が小さくて済んだものとしては、2009年新型インフルエンザの世界的流行がある。
・また、1997年からの高病原性トリインフルエンザや2002年のSARSについてはパンデミックには至らなかったものの、その一歩手前の状態になった。
・そして2020年、新型コロナウイルスが中国の武漢市から流行し、2月末現在で全世界で8万人程の感染者、3000人ほどの死者が出ており、発見されてない感染者と死者数は確認されている10倍ほどにもなると予測されている。

 

 WHOは、感染症の感染力や流行の、その時々の状況に応じて、(パンデミックに至る)6つのフェイズ(phase、「段階)(≒警戒区分)に分類している。この警戒区分は、対象となる感染症の原因となる病原体の病原性の強さや、流行の程度を考慮して総合的にWHOが判断して警戒や対策の実行を呼びかけるものである。
パンデミック・インフルエンザのフェイズ
WHOでは、パンデミック・インフルエンザの各フェイズを以下のように切り分けて公衆衛生学的な対策を行う。
なお6段階ではなく3段階に分けた用語と、6つのフェイズの関係は次の通り。
前パンデミック期(Inter-Pandemic Period):フェイズ 1-2
パンデミック・アラート期(Pandemic Alert Period):フェイズ 3-4-5
パンデミック期(Pandemic Period):フェイズ 6
WHOによるパンデミック・インフルエンザの6つの分類(2005年版)
フェーズ1 (前パンデミック期)
ヒトから新しい亜型のインフルエンザは検出されていないが、ヒトへ感染する可能性を持つ型のウイルスを動物に検出。
このフェーズでの対策の目標:世界、国家、州、県、都道府県、コミューン、市区町村のそれぞれのレベルで、パンデミック対策を強化する。
フェーズ2 (前パンデミック期)
ヒトから新しい亜型のインフルエンザは検出されていないが、動物からヒトへ感染するリスクが高いウイルスが検出
このフェーズでの対策の目標:ヒトの感染拡大のリスクを減少させ、仮にヒト感染が起きたとしたら、迅速な検知、報告が行われる体制を整備する。
フェーズ3 (パンデミックアラート期)
ヒトへの新しい亜型のインフルエンザ感染が確認されているが、ヒトからヒトへの感染は基本的に無い。
このフェーズでの対策の目標: 新型ウイルスを迅速に検査診断し、報告し、次の患者発生に備える。
フェーズ4 (パンデミックアラート期)
ヒトからヒトへの新しい亜型のインフルエンザ感染が確認されているが、感染集団は小さく限られている。
このフェーズでの対策の目標:隔離をはじめとした物理的な封じ込め対策を積極的に導入し、ワクチンの開発と接種などを事前に計画し、準備した感染症対策の実施に必要な時間的猶予を確保するために、最大限努める。
フェーズ5 (パンデミックアラート期)
ヒトからヒトへの新しい亜型のインフルエンザ感染が確認され、パンデミック発生のリスクが大きな、より大きな集団発生がみられる。
フェーズ6 (パンデミック期)
パンデミックが発生し、一般社会で急速に感染が拡大している。

 

大規模の流行
ヒトからヒトへの相当数の感染(単一のWHO管区内における複数の国家での感染)を認めるだけの証拠が存在する。
パンデミックへと発展する可能性が高く、早急に大流行への計画的な対策を講じる必要性がある。

 

世界的な大規模流行   グローバルパンデミック(世界流行)の状態。
上記の状態に加え、当初集団発生したWHO管区とは異なる管区で集団発生が確認される。

 

流行の消退
流行のピークは過ぎたものの、流行再燃の懸念が残る状態。

 

流行後
パンデミックを起こしたウイルスが通常のインフルエンザウイルスと同等の状況となった状態。しかしパンデミックに対する警戒と備えは維持する必要がある。

 

 WHOの分類フェイズを目安にしつつ、各国の政府、自治体、行動計画をそれぞれ作成することによって、パンデミックへの対策を行わなければならない。企業等さまざまな組織も、従業員や顧客を護るために対策を練ることになる。

 

 なお、もしも患者が急増した場合には、医療機関の混乱、交通機関の麻痺、食料の供給不足などが発生する懸念がある、とする専門家もいる。

 

パンデミックに発展する恐れのある疾病
 世界保健機関の国際的感染症対策ネットワーク (2009) が警戒する感染症は、炭疽、鳥インフルエンザ、クリミア・コンゴ出血熱、デング熱、エボラ出血熱、ヘンドラウイルス感染症、肝炎、インフルエンザ、2009年のインフルエンザ(H1N1)、ラッサ熱、マールブルグ熱、髄膜炎症(en:Meningococcal disease)、ニパウイルス感染症、ペスト、リフトバレー熱、重症急性呼吸器症候群(SARS)、天然痘、野兎病、黄熱病の19疾病である。
WHOのパンデミック誤警告問題[編集]

 

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