中国顔認証システム

 顔を見ただけで、その人の財政リスクの大きさが分かるものだろうか。

 

 中国最大の保険会社で中国有数の金融コングロマリットである中国平安保険は、ある程度は分かると考えている。同社では金融商品を販売する際、見込み客のリスク評価の一環として顔認証技術を使用している。
 身元を確認したり、表情から信用度を読み取ったりするためで、日常的に顧客や自社の保険外交員の顔をスキャンしている。

 

 同社の消費者金融部門では2016年から独自の技術を使用し、融資に申し込んだ個人客を審査している。分析要素の1つは、「微表情」と呼ばれる瞬時のごくわずかな、ほぼ無意識の顔の動きだ。

 

 中国ではこの取り組みをはじめ、顔認証技術が日常生活の一部となっている。中国当局は規制やプライバシーを気にすることなく、街角や地下鉄の駅、空港、国境でそれを利用している。

 

 平安では顔認証技術を主に顧客の身元確認に使用している。平安で口座を開設する際、顧客はしばしばIDカードの画像の提出を求められる。また、顔認証プログラムを初めて使用する際には、口を開けたり、まばたきをしたりといった一連の動作を要求される。

 

 口座を開設したあとは、本人のスマートフォンで顔をスキャンして一部の生命保険や医療保険を購入することができる。また、ビデオ会議で外交員と直接やり取りしたり、平安のソフトウエアで顔認証をした上で請求書を提出したりできる。
 平安はこの技術を保険事業にも活用し、顧客の健康を判断している。新たな活用法の1つは、顔認証による体格指数(BMI)の測定だ。肥満度を表すBMIは、100種の重大疾病のいずれかと診断された場合に最大100万元(約1570万円)が一括で支払われる保険に加入する際、使用されている。加入者は、認証技術で算出されたBMIに基づいて月額保険料の割引を受けられる。BMIが30以上だと肥満とされており、最低月額保険料30元の商品の場合、BMI30未満の人は月額6元の割引が受けられる。

 

 「顔自体だけでも、個人の健康について豊富な情報が得られる」。こう話すのは、中国の清華大学でリスク計算について教えるマイケル・パワーズ教授だ。例えば、顔から喫煙者かどうかを判断することも可能だという。しかし、そのような顔認証技術の利用は、一部の人たちを差別することにもなりかねないため、まだ広く商用化されていない。

 

 また、こうした技術はさまざまな顧客群ごとに料金を設定するためというよりも、関心を集めたり、顧客に人工知能(AI)に親しんでもらったりするための販促ツールとして利用されているという意見もある。

 

 平安の広報担当者は、顔認証を使用したBMIの測定は、「特典」の1つとして提供されていると説明。保険の引き受けに際しては、他のさまざまな要因やデータも考慮していると述べた。

 

 一方、同社の融資部門では、顔認証技術を使用して融資申込者の顔をリアルタイムに分析し、感情や精神状態を表す「微表情」を読み取っている。微表情は通常、ほんの一瞬だけ現れ、本人にはコントロールが難しい。平安がソーシャルメディア「微信(ウィーチャット)」の中国の公式アカウントに昨年掲載した記事によると、融資担当者は微表情で得られる情報に基づいて申込者の信用度をより正確に判断しているという。

 

 大口融資の場合、申込者は多くの場合、10〜15分かかるオンラインビデオ会議で質問に答える必要がある。平安は申込者が答える様子を録画して分析し、目が泳いでいるといった怪しげな動作をシステムで特定している。

 

 平安は1月、微表情データの助けを借りて5000億元以上の融資を組んだと述べた。また、顔認証技術によって、融資承認までの期間が平均5日から2時間に短縮されたという。

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