エッジコンピューティング

 直近のイノベーションのひとつが、クラウド・コンピューティングです。Dropbox、Google Drive、Amazonウェブサービスなどはすべてクラウド上で運営されています。クラウドを使った場合、手元のコンピューターに情報を保存するのではなく、共有サーバーに情報を保存します。多くの企業や個人ユーザーがこの技術を採用したことで、クラウドサービスは今では常識となりました。

 

 ところが、クラウドサービスはもう時代遅れになりつつあります。IoT(モノのインターネット)全盛の今、データのやりとりにはかつてないほどスピーディさが求められています。IoTでは、トイレやトースター、時計、車など身近なものがインターネットに接続されます。
エッジコンピューティングと呼ばれるこのテクノロジーは、すべてのゲームを変えるポテンシャルを秘めています。
エッジコンピューティングの定義は、「分散処理能力を特徴とし、モバイルコンピューティングとモノのインターネット(IoT)テクノロジーを可能にする分散型のオープンITアーキテクチャー。 エッジコンピューティングでは、データはデータセンターに送信されず、デバイス自体によって、またはローカルコンピューターやローカルサーバーによって処理される。
エッジコンピューティングでは、IoTデバイスが生成したデータをデータセンターやクラウドといった遠方に送るのではなく、デバイス付近で処理を行います。このコンピューティングがネットワークの「エッジ(最前線)」に近づけば、企業は重要なデータをほぼリアルタイムで分析できるようになり、IoTデバイスでのより高速かつ効率的なデータ送受信が可能になります。

 

・エッジデバイス: データを生成するすべてのデバイスのこと。こうしたデバイスにはセンサー、工業機械、各種車両、時計、そのほかデータを生成または収集するデバイスがあります。
・エッジ: これの意味は文脈によります。通信業界では、エッジは携帯電話の電波塔を指すことが多く、自動車業界なら自家用車。製造業では店頭に置かれた機械、IT業界ではラップトップなどの端末の意味で使われます。

 

・エッジゲートウェイ: エッジと、より広範囲のフォグ・ネットワークとの間に存在する、情報処理が行われる緩衝地帯。エッジにとって外の広い世界への窓のような役割を果たします。
・フォグネットワーク: エッジデバイスとクラウドを繋ぐネットワーク環境のこと。
・ファットクライアント: エッジデバイスでデータを処理できるソフトウェア。対してシンクライアントは、データの送信のみをするソフトウェア。
・エッジ機器: ほとんどのデバイスや機械は、インターネット接続を可能にしてやることでエッジコンピューティング環境で使えるようになります。Amazonウェブサービスのスノーボールのようなコンピューターシステムは、エッジコンピューティングの実装下で利用可能でしょう。インターフォン、トースター、トイレ、自家用車のような身近なものがエッジ機器になりえます。
・モバイル・エッジコンピューティング: 5Gが実現した際の、エッジコンピューティングシステムの発展形。

 

 新しいテクノロジーにはもちろん新しいメリットが付き物です。エッジコンピューティングの特筆すべきメリットは次の5つ。

 

1. 応答時間: エッジコンピューティングではクラウドを行き来する必要がないため、待機時間を短縮し、応答をより迅速にします。これによりオペレーションのブレークダウンや思わぬ事故を防ぐことができます。

 

2. 限られた接続環境での安定したオペレーション: 油田、農場の給水ポンプ、太陽光発電所、風力発電所に関連するインターネット接続が不安定だと、事態がややこしくなります。エッジ側でデータを保存し処理する能力は、限られたインターネット接続環境でのデータロスやオペレーション不全を未然に防いでくれます。

 

3. セキュリティ: エッジテクノロジーにより、デバイス-クラウド間の往来を省略できます。機密情報をローカルでフィルタリングし、クラウドに送信する情報を選択することも可能です。これによりユーザーは企業セキュリティと監査に欠かせない、適材適所のセキュリティフレームワークを構築できます。

 

4. 省コスト: IoTに関する主な懸念の1つに、ネットワーク帯域幅、データストレージ、計算能力にかかる先行費用が挙げられます。エッジコンピューティングはローカルで大量のデータ計算を実行できるため、企業はローカルで実行するサービスと、クラウドに送信するサービスを選択できます。これにより、IoTソリューション全体の最終コストが削減されます。

 

5. 従来型デバイスとエッジデバイス: エッジデバイスは、従来型マシンと新型マシンの仲介役を果たします。それにより従来型の産業マシンを新型マシンやIoTソリューションに接続でき、従来型マシンや新型マシンからのインサイトを獲得できるという即効的なメリットがあります。

 

 では、将来的なエッジコンピューティングの立ち位置とは?エッジコンピューティングは現在進行形の変遷にどう関わっているのでしょうか?

 

2019年に到来する9個のデジタルトレンド
1. 5Gモバイル: いよいよあらゆる場所で5Gを体感できる時代が目の前まできています。5Gやモバイルデバイスにワクワクさせられる時代の到来です。2018年は固定5Gアプリケーションの独り立ちの年でした。2019年には、モバイルデバイスの画面上部に5Gマークを見かけるようになるでしょう。

 

2. チャットボット: 自然言語処理(NLP)と感情分析の分野で大きな躍進が続いています。実際、NLPがこれまでに例を見ないほどサービス業界全体を揺るがすと断言する人もいます。人手いらずで提供できるサービスが多数登場するでしょう。企業はNLPを使用してインサイトを収集し、それに基づいてサービス向上を図ります。2019年末までに、大企業の約40%がNLPを採用する見込みです。

 

3. コネクテッドクラウド: 多くの企業が、各種パブリッククラウド、プライベートクラウド、データセンターなどの使用が最善策ではないと気が付きつつあります。こうしたことから、移り変わる企業ニーズに対応するため、コネクテッドクラウドの開発が進められています。AmazonやAlibabaのような大手パブリッククラウドプロバイダがこのニーズに応じ、プライベートクラウドという選択肢を提供しています。「マルチクラウド」がクラウド・トークの新しい流行語となるかもしれません。

 

4. ブロックチェーン: ブロックチェーン技術の探求が進むにつれ、その厄介さを認識し始めた人も多いのでは。現時点では、それは「普通の」人々が使うにはあまりにも複雑で、規格化された使用方法もない状態です。ブロックチェーンのマスアダプションを成功させるには、誰もが使用・理解できるプラグ&プレイ版を作成するしかありません。喧伝されてきたその経済効果を目にし始めるのは、おそらくもう2〜3年先でしょう。

 

5. ヨーロッパ一般データ保護規則: 2018年8月時点で、企業全体のおよそ1/3がヨーロッパ一般データ保護規則(GDPR)に準拠していません。この条例はユーザーに対する手厚いデータ保護の提供を目的としているため、情報に聡い消費者であれば、データ保護に力を入れている企業とそうでない企業を見分けられます。GDPRは、企業に対しプライバシーと個人データの取扱方法についての説明責任を突きつけるわけです。

 

6. 拡張現実(AR): ARは2019年のデジタル変革トレンドにおけるキーワードです。ARは企業での人材トレーニングによく見られ、事実非常に便利です。そして結局のところ、便利さがテクノロジーの存在意義ですよね。2019年にはAR開発が増加する可能性が高いでしょう。

 

7. リアルタイム処理: IoTが広まるにつれ、より近場により多くのデータ処理用スペースが必要になります。スマート・シティや自動運転車両の構想は、クラウドでデータ処理が行われる必要があるうちは実現の可能性はゼロに等しいでしょう。リアルタイムでの分析やデータの処理は、今のところエッジテクノロジーだけがサポートできるものです。

 

8. 大量消費ベースのITサービス: サービスにまつわるアイディアであれば、どんなものでも歓迎されるのが現状。IT業界がサービス業界の一環として成長を続ける中、企業は自社のニーズに即した多様なITサービスを選ぶようになってきています。

 

9. 最高経営責任者(CEO): 2019年、CEOたちはデジタル・トランスフォーメーションが順調に進んでいないことに気が付き、ついに重い腰を上げます。これからも変化していくであろう構築カルチャーの特質、従業員の再教育や小回りの効く人材を雇用する重要性を認識しつつある彼らは、デジタル・トランスフォーメーションに向けた雇用に重点を置いていくでしょう。

 

 エッジコンピューティングは今まさに、私たちが慣れ親しんだネットワークシステムを変えようとしています。エッジコンピューティングにより、自動運転車両、スマート・ホーム、スマート・シティなどが新たな常識となるでしょう。これらはクラウドだけでは達成できません。エッジコンピューティングの躍進がマストです。

 

 その他にも2019年には、ARや練度を増したチャットボット、5G携帯などのお楽しみがたくさんあります。これまでにないエキサイティングな体験ができる年になるでしょう!

 

<ARとは「Augmented Reality」の略で、一般的に「拡張現実」と訳される。実在する風景にバーチャルの視覚情報を重ねて表示することで、目の前にある世界を“仮想的に拡張する”というものだ。テクノロジーとしてのインパクトは大きく、特に近年はスマホ向けサービスとして比較的簡単に実現できることもあり、日常生活の利便性を向上させ、新しい楽しみを生み出せる新機軸の技術として注目を集めている。>

 

<「チャットボット(chatbot)」とは、「チャット」と「ボット」を組み合わせた言葉で、人工知能を活用した「自動会話プログラム」のこと。
「チャット」は、インターネットを利用したリアルタイムコミュニケーションのことで、主にテキストを双方向でやり取りする仕組み。ビジネス向けのクラウドサービスに「ChatWork」や「Slack」などがある。
「ボット」は、「ロボット」の略で、人間に代わって一定のタスクや処理を自動化するためのプログラムのこと。不正な処理がプログラムがされればウィルスとなり、スマホアプリに組み込まれれば、パーソナルアシスタントなどの便利なツールにもなる。>

 

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