長期的経営を考えるにあたって
外部環境の“変わらない事実”だけ押さえ、そこから10〜20年持つ経営設計に落とし込みます。
前提(動かしにくい環境)
・高齢者は確実に増える:85歳以上は2040年に約1,000万人規模へ(総人口の約1割)。
・介護人材は恒常的に不足:国推計ベースで2040年に272万人必要、約57万人不足見通し。
・制度は“人手の生産性向上”を軸に改定が続く:2024年の介護報酬改定も自立支援・生産性・職場環境を強化の柱に。
・テクノロジー導入は“政策テーマ”:介護ロボ・ICTの重点分野整備と補助メニューが継続(地域医療介護総合確保基金、各都道府県事業等)。
・外国人材の制度ルートは拡充・定着(特定技能/EPA/養成校ルート等)。
10〜20年の3シナリオ(不確実性を抱えながら備える)
S1:コア改定(現状延長)
報酬・人員基準は微修正中心。物価・人件費は年1〜2%上昇。→「生産性と充足率で勝負」
S2:ハード化(報酬抑制+基準緩和)
入所者重度化、診療所減少が進行。→「重度対応力+外来・在宅医療の代替+保険外の選択肢」
S3:多重ショック(料金高騰・人材不足深刻化・災害)
電力等の固定費上振れ、人員確保費の急伸。→「エネルギー自給+業務の分解・自動化+地域連携グリッド」
以降の施策は**どのシナリオでも効く“土台”+S2/S3で効く“ブレーキ&アクセル”**の順に配置しています。
打ち手(8本柱)
1.需要マネジメント:介護“前後”を取り込む
・既存の介護付き有料老人ホームへの転換を核に、看護小規模多機能・ショート/通所・訪問看護・在宅見守りを“面”で連結(すでにお持ちの機能を一つの窓口で売る)。
・認知症早期?中等度の“予防・家族支援”パッケージ(家族教室、レスパイト、短期集中リハ)を定番化。
・看取り・終末期の標準化(多職種プロトコル・家族説明シナリオ)で病院代替の受け皿へ。
2.人材:タスクを“分解”して充足率を上げる
・スキル等級×業務棚卸し(例:移乗・排泄・見守り・記録・服薬・口腔・家事)で看護/介護/補助の再設計。
・外国人材のパイプラインを“毎年◯名”の定期採用化(送り出し機関の二重化、寮・語学支援をセットで)。
・**シニア就業(65+)**の軽作業・夜間受付・洗濯/清掃の活用、障害者雇用と連携してバックオフィス・軽作業の“内製BPO”を拡げる(貴法人の就労系拠点を強み化)。
3.生産性:デジタル&ロボを“仕事の筋道”に組み込む
・見守りセンサー/転倒検知、ナースコール一元化、音声入力記録、配薬/誤薬防止、移乗・入浴支援。
・導入はKPIと作業手順を先に作り、補助金で調達(1施設あたりICT上限400〜1,000万円、ロボ個別上限30〜100万円の代表的枠あり)。
・介護ロボの重点分野(移乗・見守り等)は国が明確化。“省1名相当/日”換算で費用対効果を数字に。
4.医療の“仮想化”と地域連携
・医師不足地域で遠隔診療・訪問診療の定期枠を平時から確保。オンライン同席・在宅検体採取・薬局DX(配薬)まで一連の動線に。
・看護の特定行為研修や手順書運用を進め、医師不在時の実施範囲を拡張(法令遵守のもと)。
5.料金と収益の多層化
・介護保険+自費オプション(見守り機器アップグレード、個別リハ、口腔/フットケア、コンシェルジュ、プレミアム食)で単価の天井を上げる。
・アウトカム/加算最大化(栄養・口腔・認知症ケア・看取り・夜間体制等)。2024改定の趣旨に沿った自立支援・重度化防止の数値管理。
6.エネルギー&BCP(“止まらない施設”)
・各拠点にPV+蓄電+独立運転を標準化、LPガス非常用で72時間冗長化。
・敷地条件に応じて木質ペレットCHPを“熱主導”で(給湯・暖房の大きい拠点)。
・夏の熱波・冬の停電シナリオに対し、優先回路と需要遮断ルールを作る(空調・換気・通信は必須系)。
7.データ経営(“見える化→標準化→自動化”)
・30分デマンド・職員勤怠・ナースコール・事故/ADL・加算取得率・稼働率を月次ダッシュボード化。
・事務はRPA/自動仕訳(銀行連携)を定着させ、会計・原価を“ユニット別/入居者重症度別”に見える化。
8.財務・資金政策
・設備はPPA/リース/補助金のミックスで初期負担を抑え、金利上昇と電力上振れを相殺。
・硬直コスト(電力・人件費)は先にヘッジ策(固定単価・上限制・複数小売/DR参加)を決める。
・与信/資金繰りの“崖”(借入返済ピーク等)は3年前倒しで再編成。
ロードマップ(実務ベース)
0〜6か月
・全拠点の稼働・介護度・事故・加算・人員・エネルギーの“現況棚卸し”とボトルネック特定。
・優先施策の実証:1拠点で見守り+音声記録、別拠点で移乗/入浴ロボの小規模PoC→省人効果の実測。
・外国人材の年次採用計画(送り出し2社、受入教育、寮整備)。
・BCP電源:蓄電(200〜500kWh級)+独立運転の一次設計、DR/VPPの事業者選定。
6〜18か月
・ICT・ロボ本導入(補助活用)と業務手順の改訂。
・看取り・認知症ケアプロトコルの標準化/研修。
・PV+蓄電の着工、LPガス非常用の二重化(順次)。
・通所/ショートの“入口”を増やし、有料ホームの入居導線を太くする。
18〜36か月
・サービス“面”の統合(介護付き・看多機・訪看・訪介の“一体運用”)。
・人材等級制度×手当の刷新(生産性と定着に連動)。
・木質ペレットCHPは熱需要の大きい拠点で基本設計→補助・融資申請。
・ダッシュボード運用を全拠点に拡張、原価/単価/稼働の月次経営会議を定例化。
3〜5年
・医療の仮想化(遠隔診療・薬・検体)を定着、病院依存の代替率をKPI管理。
・“地域のレジリエンス拠点”として行政・病院・町内会と停電時受け入れ協定。
・加算・自費の単価最大化と、稼働90%+αの安定運用。
5〜10年 / 10〜20年
・古い棟の建替・断熱改修・ZEB化を順次。
・分散電源のマイクログリッド化(近隣施設・避難所と面的連携)。
・地域医療の空白を埋める“介護主導のケア・プラットフォーム”として、在宅〜施設〜看取りの連続体を地域標準に。
モニタリング指標(“折れ線が曲がったら即対応”)
・人材:離職率/月、欠員率、採用リードタイム、外人材比率、残業時間。
・ケア品質:転倒率/在室率/褥瘡/誤薬/看取り満足度。
・収益:稼働率、加算取得率、1人1日当たり粗利(保険+自費)。
・生産性:1人当たり要介護度調整済みケア時間、記録時間/日。
・エネルギー:デマンド最大値、購入電力量、停電時自立時間。
・政策:報酬・補助・在留資格の変更(四半期レビュー)。
最後に(骨太の方向性)
・“人を増やせない前提”で、業務そのものを変える(分解・標準化・自動化)。
・医療の希少資源化に備え、看護主導×遠隔医で“医療の穴”を埋める。
・止まらないインフラ(電力・通信)を自前で用意し、コストの上振れをヘッジする。
・保険に依存しすぎない単価設計で、報酬の波を飲み込む。